NEWS
新着情報
2026年7月・審査基準改訂「除くクレーム」の解説

先行文献との予期せぬ重複を回避するための「伝家の宝刀」——それが、「ただし、○○を除く。」などと追加する、いわゆる「除くクレーム」の補正です。知財担当者なら一度は検討したことがあるのではないでしょうか。
2026年7月、特許庁は審査基準(第IV部第2章)を改訂し、さらに審査ハンドブックへ「第XII部第1章」を新設しました。今回の改訂によると、「単に重なりを排除するだけの補正は、新規事項追加(特許法第17条の2第3項)として拒絶される」ことが明文化されたといえます。
これからの知財実務で足元をすくわれないために、押さえておくべき変更の主なポイントと、今すぐできる対応策を解説します。
許容条件:何がNGになるのか?
今回の改訂における最大の変更は、除くクレームが許容される条件と許容されない条件が記載された点にあります。これまでの審査基準との違いを、以下の表にまとめました。

※「技術的思想として顕著に異なる発明」とは、「出願当初の明細書や技術常識から考えて、そもそも出願人がそんな発明を想定していたとは到底思えないレベルの発明」を指しています。
さらに、改訂された審査基準では、以下の3つの留意事項が示されています。
● 出願人の説明責任:「顕著に異なります」と主張するだけでは除くクレームとする補正が認められず、技術常識に基づいた具体的なロジックが必要です。
● 進歩性欠如のトラップ:補正前の発明がもともと進歩性なしと判断されるレベルだった場合、除くクレームで無理やり新規性だけを確保しようとしても、進歩性欠如として拒絶されるリスクが残ります。
● 除外範囲の大きさ:広すぎる範囲や複数箇所を除外すると、「結局、何が権利範囲なの?」と判断され、明確性要件(第36条第6項第2号)違反となるおそれがあります。
【事例に学ぶ】なぜ、数値範囲の除外は拒絶されるのか?
新設されたハンドブック(12103, 事例3)には、知財担当者として注意しておきたい拒絶査定の事例が掲載されています。
事例3:インクジェットプリンタ用洗浄液
引用文献に「t-ブタノール含有量は50〜70質量%が好ましい」と書かれていたため、出願人が「t-ブタノールの含有量が50〜70質量%の場合を除く。」という記載を追加する除くクレームとする補正を行うケース。
この場合、特許庁の判断は「拒絶(新規事項追加)」とされています。
理由は、当初の明細書に「50質量%」や「70質量%」という境界値についての記載や示唆が一切なく、出願人からも新たな技術的事項を導入するものではないことの根拠と合わせた説明がなされていないためです。
なお、審査ハンドブック附属書D には、過去の審判決例として、数値範囲の除外が認められたケースが掲載されています((81-4)-2:知財高裁平成20年(行ケ)第10358号)。このケースは、自己の先願特許と区別してダブルパテント(特許法第39条)を回避するための補正であり、この判決では、本件補正は、特許請求の範囲の記載に技術的観点から限定を加えるものではないから、新たな技術的事項を導入するものではない、と判断されており、事例3との違いに留意する必要があります。
実務上の3つの対策
審査基準を考慮して、知財担当者が実践するとよい対応策は以下の3つです。
1. 「根拠なき数値」の除外は原則行わない
事例3が示すとおり、明細書に全く記載のない数値(境界値)に基づいて、除くクレームとする補正は、原則として認められません。数値範囲で引例を回避したい場合は、出願段階からバック
アップデータを多層的に仕込んでおくか、審査官との早期の面接を活用して落としどころを探ることが考えられます。
2. 意見書は「定型句」だけではなく「説明(エビデンス)」を付ける
「本願発明と引用発明は技術的思想が顕著に異なります」という定型句による主張だけでは、審査官は、除くクレームとする補正を認めない可能性があります。当業者の目線に立ち、「なぜ出願当時の技術常識から見て、この除外が不自然ではないのか」を裏付ける文献を添付したり、出願当初の明細書に基づいて、丁寧な説明を試みる必要があります。
3. 出願前の「もしも」の仕込みを徹底する
出願前の先行技術調査をより精緻に行い、あらかじめ重複しそうな範囲を予測して、明細書内に「別案」や「好ましい数値のバリエーション」、「構成の多角的な表現」を記載しておくことが、今までどおりかそれ以上に問われることになります。
おわりに
今回の改訂は、審査基準の厳格化のように思えますが、他方では、安易な除くクレームによる権利化を防ぎ、第三者が権利範囲の予測可能性を高められる利点もあり、公平の観点から改訂されたともいえます。
弁理士 三苫貴織
