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【実務解説】トラブルを防ぐ「共同出願契約」のチェックポイント:交渉で負けないための実務ガイド

〜ひな形をそのまま使わないための実務ガイド〜
共同研究開発の成果として生まれた発明を他社や大学と共同で出願する際、実務で頻繁に締結されるのが「共同出願契約」です。インターネット上で多くの「ひな形」が手に入りますが、自社のビジネスモデルや相手方との関係性を考慮せずにそのまま締結すると、将来的に自社のビジネスを縛る大きなリスクに繋がりかねません。
本コラムでは、契約レビュー実務において特に需要が高く、トラブルに直結しやすい「4大チェックポイント」と、実務上の注意点を分かりやすく解説します。
1. 共同出願契約における「4大チェックポイント」
共同出願契約をレビュー・起案する際、必ず確認すべき最重要ポイントは以下の4点です。
① 出願・維持費用の負担と手続きの主導権(窓口)
特許は出願して終わりではなく、審査対応(拒絶理由通知への対応)や登録後の年金維持など、長期にわたり多額の費用と実務負担が発生します。
費用の負担割合: 持分比率に応じるのが原則ですが、「外国出願費用」やその際の「翻訳費用」など、どちらがどこまで負担するのかを事前に明確にする必要があります。
手続きの主導権: どちらの出願人が主導して特許事務所(代理人)を選定し、審査対応(中間処理)を行うかを定めます。対応方針の決定時、事前に相手方の同意が必要か、あるいは協議で決めるのか、実務フローを具体的に設計します。特に中間処理(拒絶理由対応など)には厳しい法定期限があるため、相手方の回答遅延により期限を徒過する最悪のシナリオを防ぐべく、「◯日以内に回答がない場合は同意したものとみなす(みなし合意)」といった実務的なデッドライン条項を定めておくことが極めて重要です。
② 持分比率と第三者へのライセンス(実施許諾)の制限
特許法上、共同特許を第三者にライセンス(実施許諾)する場合、他方の共有者の同意が必須となります(特許法73条3項)。
ひな形の落とし穴: 特許法の原則通り「相手方の同意がなければライセンスできない」と定めてしまうと、将来的に自社が実施許諾によるロイヤリティビジネスを行おうとした際、相手方の不合意によりビジネスがストップする恐れがあります。
実務上の対策: あらかじめ契約内で「相手方は、合理的な理由がない限りライセンスを同意するものとする」といった留保条項を入れるか、あるいは一定の範囲で事前に同意(事前承諾)を与えておく交渉を検討しましょう。また、ライセンスを認める場合には、得られたライセンス対価(ロイヤリティ)を「持分比率に応じて分配する」のか、あるいは「ライセンス開拓への貢献度に応じて分配する」のかといった分配割合についても契約内で必ず明記しておくべきです。
③ 自己実施の可否と「不実施補償」
特許の共有者は、他方の同意を得なくても、その特許発明を自ら実施(製造・販売など)することができます(特許法73条2項)。
不実施補償のリスク: 例えば、自社が製造販売を行い、相手方が研究開発主体の企業(自ら製造しない企業や大学)である場合、相手方から「自社は実施できないのだから、あなたたちが実施して得た利益の一部を支払ってほしい(不実施補償)」と要求されることがあります。
実務上の対策: 自社が実施主体の場合は「自己実施は互いに自由かつ無償とする(不実施補償は行わない)」と明記されているかを必ず確認してください。逆に自社が不実施の立場(自ら製造しない企業や大学)である場合は、不実施補償規定を盛り込む交渉を行います。
④ 改良発明の取扱いと事前合意
本契約の対象となる共同発明(基礎発明)をベースに、共同研究期間中、あるいは研究終了後に新たな「改良発明」が生まれるケースは非常に多く、ここが最も盲点になりやすいポイントです。
単独・共同帰属のルール化: どちらか一方が単独で生み出した改良発明であっても、ベースとなる共同特許の技術を利用しているため、相手方から「これも共同発明だ」と主張されトラブルになることがあります。「誰がどのように創出したか(単独か共同か)」による帰属の判定基準を契約内で明確に定義しておく必要があります。
通知義務と優先交渉権: 一方が改良発明を創出して出願(またはノウハウ管理)しようとする場合、相手方への事前通知義務を課すのが一般的です。また、相手方にその改良発明のライセンスを優先的に受ける権利(優先交渉権)を与えるかどうかも、将来の技術流出を防ぎ、自社の優位性を保つための極めて重要な実務交渉カードになります。
2. クイック比較:法律の原則 vs 契約でのカスタマイズ
実務上の方向性を整理するため、特許法のデフォルトルールと契約でのカスタマイズ例を比較表にまとめました。
| 項目 | 特許法上の原則 | 実務的な契約カスタマイズ例 |
| 自己実施 | 各共有者が無償で自由に実施可能 | 原則通り(ただし、不実施補償を明示的に排除する) |
| 第三者へのライセンス | 他方の共有者の同意が必要 | 「事前合意があれば可能」または「合理的な理由なく拒めない」とし、得られたライセンス対価の分配割合も明記する |
| 持分の譲渡 | 他方の共有者の同意が必要 | 原則通り(ただし、グループ会社への譲渡や、事業部門の譲渡に伴う場合は、相手方は合理的な理由なく同意を拒めないとする等、将来のM&Aや組織再編を見据えた調整を推奨) |
| 費用の負担 | 明文規定なし(慣例では持分比率) | 出願、審査、維持の各フェーズの負担割合を明文化する |
| 改良発明の帰属 | 貢献度に応じて単独または共同帰属 | 貢献度に応じた帰属判定基準に加え、通知義務や非独占的実施権の付与を明確化する |
3. 実務担当者のための「スピードチェックリスト」
共同出願契約のドラフト(あるいは相手方提示案)をレビューする際は、以下のチェックリストを頭に入れておくと効率的です。
持分比率: 貢献度に見合っているか?(安易に50:50にしていないか)
費用分担: 国内・海外出願、翻訳、維持年金の負担区分が明確か?
ライセンス: 自社が将来ライセンスビジネスをする際、相手方にブロックされない設計になっており、対価の分配割合も明確か?
不実施補償: 自社が製造・販売する立場の場合、「不実施補償なし(無償)」と明記されているか?
改良発明: 本件に関連して将来生まれた「改良発明」について、「どちらが単独出願できるのか(単独出願の要件)」や
「共同出願にする場合の費用分担」、および優先交渉権や他方への通知・協議義務が規定されているか?
おわりに
共同出願契約は、ひな形の文字面を追うだけでは見落としてしまう「ビジネス上の制約」が多く潜んでいます。自社が「技術を作る立場」なのか「製品を売る立場」なのかによって、目指すべき契約書の着地点は真逆になります。
契約書の条項一つひとつが、将来の自社のビジネス(製造、販売、ライセンス、さらにその先の改良・発展)にどう影響するかを具体的にシミュレーションし、主体的なレビューを心がけましょう。
弁理士 藤田考晴
